神戸遠征 付録

これはRevo's Orchestra Concert 2026秋で訪れた神戸の観光の記録であり、Revoさんと全く関係がありませんでした。
前日譚:梅田
イカ焼き
浪速の民はタコだけでなくイカも焼いているらしい。
梅田で途中下車。梅田ダンジョンを彷徨う。
阪神梅田本店の地階でスナックパークの文字を見つけるまでに小一時間かかった。
店先はすでに十数人が並んでいて、私もその末端に連ねた。
ほとんど待たなかった。歩を止める暇もなかった。私が財布から小銭を出すより早く、ほかほかのイカ焼きが指し出された。イカ焼きヤキヤキ職人とイカ焼き算を極めたレジ係の連携は、目を見張るものがある。
立ち食い石の片隅で箸を割る。小麦粉を出汁で溶いた生地に濃厚なソースが塗られていて、イカが挟まれている。この弾力のある生地がが、他の粉モンと一線を画している。もはや具はイカでも、タコでもいい。お好みでもいいのではなかろうか。それほど生地が美味い。
もう一枚のデラバンはイカ焼きに卵が加わった、デラバンだ。おそらく、デラックス版のイカ焼きだ。卵の重厚さと香ばしさがまたよい。
イカ焼きの枚数と腹の満たし具合は伴っているのか、二枚じゃ満足ならない。あと八枚は食べられる。
イカ焼きは確かに存在していたし、梅田ダンジョンを放浪したカイもあった。
当後日譚:三宮
生田神社
周囲がディープ。繁華街を歩いていると突然、神聖な境内に踏み入れる。酒を浴びた人間が鳥居の先を異世界と勘違いしてもおかしくない。そんな立地だ。
この一帯が日本書紀にも記述があるほど古い由緒ある神社の社領であったというから、不思議な街だ。

ご挨拶を済ませて、社殿の裏へまわる。
嵐の予報が嘘だったかのような日差しは、サングラスをかけた太陽を想像させる。
さ、、、、サングラス、、、、、??
なるほど、彼の仕業か。
かなりの晴れ男とお見受けする。
おっと、いけない。
邪念。
社殿の裏へ回ると小さな森が広がっているのを見つけた。

木々の間をチロチロと小川が流れている。

森を進む小道の傍らに石碑があった。
こういうのは逃さずに読むのが吉だ。
どうやら生田神社は蒲鉾発祥の地でもあるらしい。
蒲鉾、、、蒲鉾、、、。
成程それで蒲に鉾な訳だ。面白い。
また一つ賢くなった。
東屋に腰をかけてほっと一息つくと、木々の間を涼風が抜けていった。
喫茶 神戸亭
まだ開場まで時間がある。
こういう時は、地図で向かうべき方角だけを確認して適当に歩くのも面白い。こう見えても、私は方向感覚には自信があるのだ。
道に迷った。
彷徨いながらアーケードを進んでいると、人々が吸い込まれて行く階段を見つけた。
降りて行くと少し低い天井、艶やかなタイルの通路に店が立ち並ぶ、三宮センタープラザだ。

怪しい占いの館。淑女が営むブティック。スパイス香るカレー屋。本屋もある。牛カツ屋には観光客の行列ができている。次はどんな店だろうか。ちょこっと覗いてみたり、賑やかな街並みに小道を見つけるとどうしても入ってその先を見てみたくなる。怪しさと賑わいがないまぜになった地下街だ。
そんなことをしているうちに、完全に方向感覚を失った。何処から此処へ来たのか、まるで分からない。どの通りを覗いても、見覚えがあるようでない。何かに化かされているみたいだ。
それでも狂った羅針盤を信じて進むと、一際素敵な角に出会った。

煉瓦造りの壁。渋い飾り窓が美しい曲線を描いている。
喫茶 神戸亭だ。
早速入ってみた。
アンティークなランプに照らされた店内。カウンターにはサイフォン式のコーヒーメーカーが置かれて、マスターの拘りと見た。会話と溶け合うジャズに、食器が触れ合う音が心地良い。
いい雰囲気だ。
受動喫煙も甘んじて受け入れよう。
案内されたテーブルの端に座る。
向かいのお兄さんは静かに単行本を読んでいて、頁を捲る音が衝立を超えて聞こえてくる。栞を挟んで本を閉じると ぽん と気味のいい音がする。彼は慣れた手つきで胸ポケットから煙草を取り出し、紙箱に三回叩いて火をつけた。
衝立を超えて煙が降りてくる。もう一つ私の元にやって来たのが、押し花のコースターと足付きのグラスに入ったアイスコーヒー。そしてショコラケーキだ。

コーヒーの苦味にねっちょり濃厚なチョコレートが良く合う。ジャズに耳を傾けて、ぼうっとする贅沢な時間が過ぎていく。
向かいのお兄さんが煙草を灰皿に揉み消して、フリスクを一粒口に入れて席を立った。
流れてくるミントの香りに喫煙者である祖父のポリデントを思い出してを追加注文したのは、また別のお話...。
ぼつかけの拓 ぼっかけ焼きそば
夕飯を求めて、三宮センタープラザを再び彷徨う。
ソースの香りに釣られて、味のあるのれんを潜った。
鉄板が埋め込まれたカウンター席に座る。他の客はスーツを着た男性ばかりだ。
ぼっかけ焼きそばを注文する。「神戸に来たならそば飯を食べるべき」は全く以てその通りなのだが、私は焼きそばが好きすぎるので仕方ない。欲望を抑えきれなかった。神戸市長田町名物「ぼっかけ」が載っているのだから、これも歴とした神戸飯だ。
熱々の焼きそばが目の前の鉄板に置かれる。鉄板の縁でソースが沸々と音を立てている。
口に入れた煮込まれた牛すじが解れて溶けていく。味のしみたこんにゃくは、ほとんど牛すじに化けて出る。甘辛いぼっかけとソースが混ざり合い、互いに高め合っている。味が濃い、濃い。茶色い味が私を満たす。
Around後日譚
ポートアイランド
コンサートから一週間後。
出張で再び神戸を訪れた。
三宮駅からポートライナーに乗る。窓際の一人掛けの席に座って車窓を眺める。ビルが立ち並ぶ街を抜けると、次に港が見えてくる。倉庫、巨大なクレーン、水上警察署を見つけては、心が躍る。海面の航跡を辿って船を探す。
視界の全てを誰かに逐一報告したくなる。そんな幼心を載せて港を過ぎていく。
目的地であるポートピアホテルに着く。広いエントランスは花柄の絨毯敷きで、柱は全て鏡張り。室内に小川が流れている。大きな吹き抜けの二階部分には、謎のブティックやセレクトショップが入っていている。ノスタルジーと絢爛が入り乱れる、贅沢な空間だった。
理化学研究所 計算科学研究センター
ポートアイランドで立ち寄りたかったのが計算科学研究センター。スーパーコンピュータ 富岳 の計算機室がここにある。
スーパーコンピュータに興味はあったが、全く専門分野ではない。恩恵ばかり受け取るだけで、なんとなく私の生活と別次元のように感じていた。果たして、そんな私も楽しめるのか。知人のデータセンター玄人と数値計算玄人から事前レクチャーを受けて挑む。

ここにある富岳は 京 の後継機として2021年から共用が開始されたスーパーコンピュータだ。
アプリケーション実効性能は「京」の最大100倍以上で、計算速度は1秒間に44京2,010兆回に達し、主要な性能も現状では競合マシンを圧倒している。「富岳」が2〜3台あれば日本全体のスマホやサーバの年間出荷分と同等のITをカバーでき、速くて大きなマシンである。1)
フロア丸々1階分を占める冷却設備と計算室にはCPUが384個入った筐体が約400台並び、互いに配線で接続して膨大な情報の処理を行なっている。
一階の展示室は一般公開されていて、富岳の構造や冷却設備が紹介されている。
まだ早い時間に訪問したので、誰もいない。貸切状態の展示室を気の向くままゆっくり回る。

IBM Quantum System Two
展示の温度差が面白い。子供向けと玄人向けの二視点で解説されていて、素人にも分かりやすく解説したいし、玄人ガチ勢も満足させたいという心意気が見える。
その中に、Society 5.0 という展示があった。これは、ありとあらゆる現象や数値をプログラムして、スパコンの中に現実世界のコピーを作るという未来の社会の形だ。現実では試験できない異常気象や、時間のかかる検証を、コピー世界の中でシミュレーションして問題の解決策を探し、現実世界に持ち帰ることができれば、新たな機械や技術の開発に貢献することが期待されている。
壁一面にセンター職員の研究が紹介されている。スパコンのハードとソフト、両面の研究のみならず、富岳を用いた研究が並ぶ。数値計算、シミュレーション、ビッグデータ、人工知能。あらゆる分野の叡智が結集している。

雨が水溜まりに作る波紋も、空を飛ぶ鳥の隊列も、桜が咲く時期も。コンピュータが登場する以前から、人間はありとあらゆるものを解き明かしてきた。長い時間をかけたその叡智がここへ集結し、もう一つの世界を築こうとしている。なんて面白いんだ。
古来より、世界の美しさを詩にしようと者がいれば、数式にあらわそうとする者もいるのが、この人間の面白いところだ。
人間が本当に面白い生き物であるならば、もう一つの世界の水も鳥も花さえも詩にするのだろう。
1)https://www.r-ccs.riken.jp/
拙文の友
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